歌舞伎町

その日の晩、私は歌舞伎町に居た。歌舞伎町の明るい空にも、ぽっかり浮かぶ満月が見える。
引っ越し3回目にして、やっと落ち着ける住居を見つけたというのに。どういうわけか私は繁華街に来てしまう。初めて上京した時に暮らした家の近所には、たくさんの飲食店や、ホテルや、風俗店が軒を並べていた。その騒がしさに慣れ親しんだ私は、次に暮らした閑静な住宅街が妙に寂しく思えた。静かで落ち着いていて、とても良い街だったのだけど。

デリヘル嬢から元同居人を挟んで譲り受けた、赤い自転車は今でも使っている。
自転車も浮かぶ月も変わらないのに、年月は知らないうちに経っていた。私は上京したてのあの頃のように、誰かの家に居候することもなく、淡々とした毎日を一人で暮らしている。それはとても居心地が良く、時々寂しい。

今こうして繁華街を歩いていると、路地裏からあの頃の私が出て来そうな気がする。あまりにも変わっているから、きっと今の私を見ても気付かないだろう。

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渋谷

二度目の引っ越し先は、渋谷まで自転車で行ける距離の住宅街だった。でも私は自転車を持っていない。引っ越しにお金を使い、当面の生活費を手元に残しておかなければならなかったため、自転車購入はしばらく我慢しようと決めた。
が、またもやタイミングの良い事に、一週間後の私は自転車に乗り、風をきって渋谷まで往復していた。マイチャリを手に入れた経緯を書き残しておこうと思う。

引っ越し前に居候していた先の元同居人が、デリヘルで働く女の子を部屋に呼んだ。プライベートで。
近くに住む彼女は自転車で訪れ、それを置いて帰りはタクシーで帰って行った。後日、何らかの理由で彼女は店を辞め、突然実家に帰ることになった。「もういらないし、置いてっていいかな」というメールが元同居人に届けられた。
そんなこんなで。元同居人は自転車に乗る生活をしていないので、置き捨てるように私の引っ越し先に自転車を届けに来た。
かくしてデリバリーされた自転車は、私のものになった。赤くて可愛いし新品同然。顔も知らない女性に感謝している。

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東京に出て数年

東京に出て来て数年、引っ越し3回。
初めて暮らしたのは繁華街の近くのマンション。居候という形で暮らしていたので、何かと気を使いながら生活していた。お風呂は一週間に2,3回程度。光熱費の負担を少しでも軽減させるために仕方がない。上京仕立ての私には風呂に入るという行為は贅沢だった。

夏場はさすがに入浴頻度を増やした。繁華街という事もあり、近所には風俗店が並んでいた。コンビニに行く途中、デリヘル嬢と思われる女性とすれ違った。なぜ職種が判明したのかについては省略します。その女性とすれ違った時、石鹸の匂いがした。毎日風呂に入っていない私は、日に何度もシャワーを浴びる彼女を羨ましく思いながら通り過ぎた。

風呂入れていいなあ。
帰宅後、同居人に話をしたところ「じゃあ風俗嬢になれば?お金も貯まるし一石二鳥だよ」と言われる。しかしその数日後、思いもよらぬところから引っ越し資金が入り、いいのかわるいのか私は面接に行く事も無く、繁華街近くのこのマンションを跡にした。

引っ越しの晩に出ていた夜の月が乳白色だった。元同居人は今でもそのマンションに住んでいるのだろうか。

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